A.C.ジョビンとトランペット

先日、映画『ヴィニシウス-愛とボサノヴァの日々-』を渋谷で観てきた。ヴィニシウスの作詞家として、そして詩人としての像の両面からヴィニシウスという人間を浮き彫りにしたブラジル音楽好きにはたまらない映画であった。
興味深かったのはこの映画に出演したそうそうたるミュージシャンたちがそれぞれギターを弾きながら歌って見せてくれたということである。特にエドゥ・ロボのギターテクニックには目を見張るものがあった。それぞれのミュージシャンがギターを身体の一部としているような感じで、ブラジル人ミュージシャンにとってギター(ヴィオラォン)を個性的に弾くということは重要であり、日本人の格好だけでギターを持っているミュージシャンたちとは全く異なり、表現のための道具としてギターをとらえていることがよく理解できた。
さらに興味深かったのは、映画パンフレットのSong Listにも掲載されているが、ジョビンとヴィニシウスのビルの屋上らしきところでのツーショットで、その傍らにはヌード写真とウィスキー?とトランペットが2台置かれていることだった。酒でも飲みながらトランペットを吹いていたのだろうか?

ジョビンの曲の中で、トランペットを楽曲の中に取り入れたものは、私の知る限りでは、『アントニオ ブラジレイロ』というジョビン最後のCDの2曲目、「マンゲイラのピアノ」だけである。このCDの中で、その他の曲ではやわらかい音色のフリューゲルホルンが使用されている。この最後のCDはジョビンには珍しく金管楽器の比重がかなり大きく、もしジョビンがもっと長生きしたならば、もう少し金管楽器をフューチャーした曲を書いていたのではないかと想像したくなる。
ジョビンの曲は、エレクトリックギターの大袈裟な音や、楽器一つが目立つようなアレンジは一切なく、すべてがコントロールされた完成度の高いアレンジが多い。トランペットのように際だつ音色を避けたのだろうか、あるいは新しい可能性をさぐっていたのだろうか?ヴィニシウスとの若いころのツーショットを観ると私は何かトランペットの可能性を探っていたのだろうとトランペット好きには思いたくなるスナップである。 

by kurarc | 2009-05-08 21:59 | trumpet