ヴィム・ヴェンダース 『東京画』を観る

ヴェンダースの映画は好きなので、かなり観ている方だが、この映画というよりドキュメンタリー映像はまだ観ていなかった。ヴェンダースが小津安二郎の『東京物語』のその後の「東京」を訪ねるというストーリーであり、笠智衆や小津のカメラ番を担った厚田雄春のインタビュー映像も含まれる。この映像は、90年代初期あたりと勘違いしていたが、ちょうど、『パリ、テキサス』を撮影している頃の映像だったのだと気付く。

映像は散漫で退屈だが、私がちょうど大学を卒業するころの東京の風景が楽しめることは興味深い。この映像の中で、ヴェンダースの友人として登場するドイツ人の映画監督ヴェルナー・ヘルツォークの東京批評は厳しい。東京タワーから眺めた風景に対し、「・・・視界は全部ふさがっている・・・透明な映像」の不在を語っているが、ヴェンダースはひとこと、その喧噪こそ問題にしたいとつぶやいている。

この映像の中で観るべきものはなんと言っても笠智衆のインタビュー映像である。ヘルツォークの言う「透明な映像」とはまさに笠智衆と重なる。笠の淡々とした語りの中に、小津映画を共につくり続けてきた「透明」な人間の輝きが発見できる。勿論、厚田の映像にも。

現在の自宅から歩いて20分程で小津の墓に行けるのに、まだ訪ねたことはない。小津映画を全て観た頃、訪ねることにしたい。
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by kurarc | 2010-05-02 21:33 | cinema