ロベール・ブレッソン 『白夜』

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ブレッソンの映画を初めて観た。『白夜』である。彼の映画の中では非常に特殊なものといわれているようだが、確かにこのような映画は観たことがない。

原作はドストエフスキーの小説『白夜』である。原作は読んだことがないので比較はできない。この映画は多分ブレッソンが思ってもいなかったことかもしれないが、21世紀になり、はじめて理解されるような映画ではなかったか?

それは青年ジャックの存在の異様さからくる。多分この映画が公開されたときにもジャックは理解されていたであろう。しかし、現在ジャックは日常となっている。それは今どきの言葉でいえば「引きこもり」のような青年であり、「オタク」のような青年を感じさせる。ジャックは画家志望の青年であるが、人間の肉体のようなものを感じることができない。よって、女性ともうまく会話ができないのである。

一方、ジャックが思いを寄せるマルト(女性)も一見、浮遊したような心でかつての恋人を待ち続けている。しかし、彼女はしっかりと地に足がついている。そのことをジャックはわからないでいる。そして、ラスト、彼は彼女にふられても、ただ呆然とするばかりで、また自分の世界に閉じこもってしまう。

パリのポンヌフで撮影された映画だが、ブレッソンはその場所を強調して描こうとはしない。この映画の舞台はポンヌフであるのかどうかすらわからない。この映画は風景が不在なのである。映画を観て、小説を読んだような感覚を味わえる映画。ブレッソン流の映画「男と女」の表現なのか?

by kurarc | 2012-11-02 23:26 | cinema