発話楽器としてのトランペット

昨晩、仕事帰りにトランペット奏者、萩原明さんの主催される講習会を受講してきた。今回のテーマは「タンギング」である。

トランペットは、音を出すときに「タンギング」という言葉を発するときに行うような「舌」の動きを伴わせる。人はクリアな音(言葉)を発するときには舌を機敏に動かして音をつくる。トランペットも同様で、舌を使わないと、ぼやけた音しか発することができない。

通常は、「Ti」(高音)、「Tu」(中間音)、「To」(低音)といった音をイメージして音をつくる。萩原さんによれば、これに、「Di、Du、Do」、「Ni、Nu、No」(その他、Zi・・・ 、Si・・・などもあるという)といった発音まであり、音の表情をつけていくのだという。

興味深かったのは、発話するときには舌だけでなく、上顎(あご)が重要であるということである。上顎と舌の位置との関係によって、人はいろいろな言葉の音色を生み出しているのである。その証拠に、舌を上顎につけないで言葉を発しようとすると、クリアな音を発することができない。

さらに、言葉を発するときには舌、上顎と同時にこれらが柔軟な動きをしていることを意識することが重要であると萩原さんは言う。トランペットの音を出すには、こうした発話のメカニズムに素直に対応した奏法を身につけないと、ぎこちない音になってしまうということになる。

音楽はよくコミュニケーションに例えられるが、トランペットは、口を使う楽器だけに、比喩にとどまるものではない、という訳である。むしろ、発話楽器と言えるようなものなのではないか。わたしは、こうしたことは頭にあってもはっきりと意識したことはなかった。プロの奏者について学ぶことは、一つ次元の異なった意識を自覚できるので、やはり楽器の技術の向上には欠かせない。

*日本語は音の貧しい言語である。よって、トランペットの発音については貧しくならないように注意が必要となるのだろう。フランス語やポーランド語のように母音についても繊細な音をもつ言語に熟知したトランペット奏者はきっと、日本人以上の繊細な音を表現できることにつながるはずである。つまり、トランペット奏者は、いろいろな発音に注意深くなければならないのだろうし、世界中の発話としての言語に興味を持つことが必要かもしれない。)

by kurarc | 2016-10-29 14:27 | trumpet