『世界はなぜ月をめざすのか』(講談社ブルーバックス 佐伯和人著) 月について

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「はやぶさ2」が無事着陸に成功したニュースが舞い込んだ。「はやぶさ」が近年大々的に取り上げられ、その影に隠れてしまったのは「かぐや」である。月探査は地球から近い衛星探査ということから、「はやぶさ」に比べて、ロマンに乏しいせいであろうか。

しかし、『世界はなぜ月をめざすのか』(講談社ブルーバックス 佐伯和人著)を読むと、宇宙を知るにはまずは月からがよい、ということがよくわかる。わたしのような宇宙のことをなにも知らない人間が、基本的な事項からよく理解できるように解説してくれている。全体は10章よりなるが、それぞれの分量が適切で、10回の講義を編集したような内容にまとめてある。

まずは、「はやぶさ」がなぜ注目されているのかについてどれだけの人がその意義を理解しているだろう。この著作ではそのことを容易に説明してくれている。このことを理解するためにはまず「分化」という言葉を理解しなければならない。地球や月は「分化」の進んだ天体である。「分化」とは均質なものが異質なものに分かれることであり、地球や月は溶けたマグマが再び固まり、様々な化学組成の物質が誕生している。それと比較して、「はやぶさ」が訪れたイトカワ(「はやぶさ2」であればリュウグウ)は、「未分化な」天体であるということが大きな意義をもっているのだという。太陽系初期の塵が集まってできた天体を維持しているため、太陽系初期にどのような物質が宇宙を漂っていたのかについて研究できると言う訳なのだ。

この書物は、こうした天体に関する用語を具体例を交えて解説してくれる。興味深かったのは、たとえば満月を地球から眺めたとき、よく知られた歌「・・・盆のような月・・・」という表現は、なぜなのか、について解説している箇所である。月は丸いのだから、常識的には中心から周辺に向かって影ができ、地球から観たときも球体として毬のように見えるのが普通ではないか、と著者も考えていたが、現実は平坦な盆のように見える。これは衝効果(しょうこうか)という現象であり、満月のように月に影ができにくい太陽の位置では全体的に明るく見えるために、月は盆のように均質な光の面に見える(月の表面がレゴリスという細かい砂で構成されていることも影響している)。よって、「盆のような月」という表現は、詩的な表現というより、むしろ科学的な表現であったということが理解できるのだという。

このように本書は、初学者でも宇宙について丁寧に解説してくれているために、いつのまにか基礎的な知識を吸収できるように編集されている。「はやぶさ」もよいが、まずは月について知ることが宇宙を知る上での出発点なのだと納得させられる。21世紀は月への開発が進む世紀であるだけに、予備知識としてまずは本書を読むことをお薦めしたい。ブルーバックスはそれぞれ出来不出来に差があるが、本書はその中でも名著と言われる書物になるに違いない。

by kurarc | 2019-02-25 21:54 | nature