映画『霧の中の風景』
姉弟の父親捜しの旅を描いた映画だが、その父は「不在の父」である。ドイツにいると母親は言うが、それはどうも嘘で、父親はどこにいるのかわからない。それでもこの姉弟はドイツにいることを信じ、旅を続ける。その旅の中で、姉と弟は様々な苦難を経験し、大人へと成長していく・・・
この映画では、もう一つの旅、旅芸人たちの旅が重ね合わされる。それは同じアンゲロプロスの映画『旅芸人の記録』と重ね合わされ表現されている。
この映画の何がよいかといえば、それは各シーンとシナリオが美しいこと、また、そこに流れる音楽が素晴らしいこと。政治的な場面を描きながらも、それを詩的でシュルレアリズムのような手法に置換して表現していること。映画としか言いようのない表現に到達していることetc.・・・
わたしはこの映画の冒頭から、あまりにも映像が美しすぎて涙がこぼれそうになる。このような映画は他には見当たらない。美しいと言うのは、ただの美しさではもちろんない。表現しようとしていることを表現しきっていること、そういう美しさである。
アンゲロプロスの映画をまたすべて見直すことにしようと思う。
*下:アンゲロプロスの映画音楽を担当しているエレニ・カラインドルーの映画音楽を集めたCD。このジャケットの写真(『霧の中の風景』の一場面)がよい。
by kurarc | 2019-08-02 23:38 | cinema