ヘルマン・ヘルツベルハーの建築

NHKのテレビ番組でスウェーデンの建築家の住まいを紹介する番組が放映されている。マリア・アクセルソンという女性建築家の回を観ていると、その中で、彼女が影響を受けた建築家として、オランダの建築家、ヘルマン・ヘルツベルハーが紹介されていた。日本では特に1980年代にから1990年代にジャーナリズムの中で取り上がられた建築家であったと思うが、その後、オランダというと、レム・コールハースが主流となり、あまり取り上げられていないように思う。


わたしも37年前、初めてヨーロッパへ旅した時に、ヘルツベルハーの建築をいくつか見学し、感銘を受けた。その中でも、やはりアペルドルンに建設されたオフィス・ビルである「セントラル・ビヘーア」は圧巻であった。いままでに体験したことのないオフィスを体験したという実感である。菊竹清訓のスカイハウスを連続させたような建築であり、その中で、パサージュのような空間や開放的なオフィス空間を形作っていたことが特に印象に残っている。トップライトを多用したこともあるのだろうが、一部、雨漏りしていたが、そのような欠点も気にならないような大胆な解法の建築であった。


彼の建築が興味深いのは、システマティックな構造を用いながら、空間の細部に対する配慮を欠かさないことであろう。それは、もちろん機能主義的な建築をつくった近代建築の反省から導き出されたものだが、特に中間領域と訳される「in-between」の概念をTeam10という建築家のグループが見出し、それを彼独自の解釈、視点で発展させたことであると思う。


そこで重要となるのは、空間の多義性、多様性を重要視すること(場所性と言い換えてもよいかもしれない)であり、具体的には街路的空間の再解釈であった。ヘルツベルハーは現代の建築家が考えなければならない基本的な設計に対する姿勢のようなものを提示したと個人的には思っている。彼の提示した姿勢、思考がアクセルソンのような建築家に活かされたということの意義は非常に大きいと思う。建築空間を設計するとき、美しさだけでなく、その細部の空間の可能性を常に頭に入れながら建築をデザインすべきであることをヘルツベルハーが教えてくれたのである。


by kurarc | 2021-04-18 12:20 | architects(建築家たち)