ヴァルター・ベンヤミンとオーセンティシティー

4月13日のブログの中で、保存問題のキーワードとして「オーセンティシティー」という言葉について、また、1994年に「世界文化遺産奈良コンファレンス」において、このオーセンティシティーという概念について議論する場が設けられ、1995年にこの会議の報告書がまとめられたということを取り上げました。この会議の概要については、『月刊文化財』という雑誌の平成7年2月号に掲載されていることがわかり、早速、国会図書館に行き、コピーしてきました。
この雑誌の特集の中で知ったのですが、奈良コンファレンスのヨキレート教授による基調講演で、ヴァルター・ベンヤミンの著作『複製技術時代の芸術作品』にふれているということです。ベンヤミンの著作の中で最も有名といってよいこの著作を改めて読み直してみると、確かにオセンティシティーに該当する言葉をベンヤミンが使っていることがわかります。
たとえば、「オリジナルが、いま、ここに在るという事実が、その真正性の概念を形成する。そして、他方、それが真正であるということにもとづいて、それを現在まで同一のものとして伝えてきたとする、伝統の概念が成り立っている。真正性の全領域は複製技術を-のみならず、むろん複製の可能性そのものを-排除している。」(下線筆者)などのくだりは、まさにオーセンティシティー(真正性)についての問題について言及しています。
ベンヤミンは、この場合、芸術における真正性について述べているわけですが、この言葉を意識して彼の著作を読み直してみると、より一層、ヨーロッパにおけるオーセンティシティーの概念について深く理解できるような気がします。ベンヤミンのテキストの多義性について、改めて驚嘆しました。ベンヤミン恐るべし。

注1:文中の引用は、『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』、多木浩二著、岩波現代文庫所収の訳文(野村修訳)から、引用させていただきました。
注2:ベンヤミンについては、もう少し頭を整理してから、後日ふれてみたいと思います。
注3:奈良コンファレンスの結論として採択された「オーセンティシティに関する奈良ドキュメント」の文化庁による仮訳はこちら

by kurarc | 2006-06-14 21:21 | books