内藤廣著 『構造デザイン講義』を読む

本書は内藤氏の東京大学での授業をまとめたものである。建築構造や素材をキーにした歴史書であり、さらに興味深いのは倫理書にもなっているということである。すなわち、建築や土木をデザインする上での心構えについても指摘してくれている。本書の中で特に感心したのは、近年の建築の災害や事故、9・11のような事件を建築家という立場から冷静に分析し、その負の遺産から想像を働かせて、それらの事故がなぜ起こったのか、あるいは、9・11のWTCの倒壊の仕方から、なぜあのような壊れ方をしたのか考えることを学生たちに教示していることである。
さらに、木構造の可能性として、リダンダンスィ(冗長性、代理機能性)を取り上げ、コンピューターの解析によって無駄のないギリギリの構造計画を行うことの危険性を指摘し、日本の木構造のように、ある部分が破壊しても全体の破壊につながらないような柔軟な建築、あるいはその建築の考え方をどのように現代建築に取り込んでいくのかについて示唆してくれている。
内藤氏の建築が、現代の多くの軽い建築と一線を画しているのも、彼の実直な建築的思考の結果であることが本書を通じてよく理解できた。

by kurarc | 2008-10-28 00:38 | books