2年ほど前 (2022年8月7日)にもこのCDをこのブログで取り上げた。繰り返し聴きたくなるCDのうちの一つである。その時にも書いたが、マドレデウスのCDの中で最も気に入っているCDかもしれない。メロディーにのびやかな曲が多いのも気に入っているし、わたしの場合、どの曲がトランペットで演奏するのに合うのか、という耳で聴いてしまうことも多いが、このCDでは、こうしたわたしの願望を満たしてくれる曲が多い。
このCDのタイトルは直訳すれば『平和の精神』である。これを日本版では『陽光と静寂』と名付けた。この時点では仕方のないことであったかもしれないが、もし、このCDが現在発売されたのなら、このタイトルとは異なったものになったはずである。このCDは明らかに発売された当時、紛争が激化していたユーゴスラヴィアを念頭につくられた(「OS SENHORES DA GUERRA」(日本語訳 「戦士たち」)の歌詞に注意)と思われる。リダー、ペドロ・アイレス・マガリァンイシュの歌詞は決して明るいものではないが、その簡潔なポルトガル語はどの歌詞も美しい。日本版CDにはポルトガル語の歌詞の下に英語訳(ペドロ・アイレス・マガリァンイシュによる)があるし、国安真奈さんの日本語訳も記されているから、ポルトガル語が理解できなくても、歌詞の内容の理解を助けてくれるだろう。
このCDのポルトガル語は特に簡潔であるから、ポルトガル語を学ぼうとするものにも適しているし、ポルトガル語の詩(歌詞)の美しさを味わうことができる。また、その歌詞に合わせた伸びやかな曲は、現在の日本で流行する音楽とは正反対である。これだけ紛争が世界各地で展開するのに、テレビから流れてくる曲は能天気なものばかりで、それはメディアの選択でもあるのだろうが、現在の状況を歌にするミュージシャンはライブハウスで地味に活動するラッパーくらいかもしれない。
またこのCDは、ボーカルのテレーザ・サルゲイロの声が最も成熟した頃であり、その声に惹きつけられる。ライナーノーツのなかでグレゴリオ聖歌との類似を指摘されているが、30年以上経過したCDであっても色褪せることのないのは、彼女の声の輝きによるのだろう。
新生マドレデウスも結成され、新たに魅力的な曲をつくっているが、残念ながら、この当時の勢いはないようである。ポルトガル本国でも時代遅れ(保守的な音楽)のグループのように扱われているのかもしれない。わたしは決してそのようには思わない。また、日本の地で彼らの音楽が聴けることを期待したい。
*「OS SENHORES DA GUERRA」の歌詞の中に、
Já não há memória de paz na terra. ( No one remembers peace, anymore. ) というフレーズがある。
これを国安さんは、「地上には すでに平和の影すらない」と訳されている。「memória」を「影」と訳されたのは真に名訳である。
# by kurarc | 2024-03-17 17:32 | Portugal(ポルトガル)