ジョイスの名曲 『Essa Mulher』(或る女)

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以前(20070330)、エリス・レ( ヘ)ジーナのCD『Elis, essa mulher』(或る女)をこのブログで紹介した。その3曲目がこのCDのタイトルになっている『Essa Mulher』である。

曲はジョイスが担当し、歌詞はアナ・テーハが担当している。ジョイス、ワンダ・サーをはじめ多くの歌手が歌っているが、アレンジを含め、エリスの歌が最もよいと思う。この曲の歌詞もまた非常に魅力的なポルトガル語である。以下に少し紹介しておきたい。

歌詞は3つのパートに分かれている。タイトルの通り、「或る女」を描いているのだが、それは3つの様態の「女」、ポルトガル語で「senhora(スニョーラ 既婚婦人)」、「menina(メニーナ 少女)」、「mulher(ムリエール 女または、年頃の娘、既婚婦人)」の順に描写されている。

3つのパートは一人の女の過去と現在を描写しているようにも、また、3人の世代や育ちの異なる女を描写しているようにも思われる。短い歌詞の中で、女の生涯を感じさせる実に魅力的なストーリーであり、映画音楽のように感じられる。

興味深いポルトガル語は、

第1パート"secar os olhos"(直訳は「眼を乾かす」から「涙をかわかす」の意)
第3パート"secar o bar"(直訳は「パルを乾かす」から「酒をあける」「酒を飲む」の意)

この表現が対になっていることで、「涙」と「酒」も対として扱われている。つまり、「酒」を飲むことは「涙」を飲むこと、つまり「涙」を乾かすことと対応している。第1パートの涙は幸せに対する、第2パートの涙は喜びに対する、第3パートの涙は不幸に対する涙の表現。

また、それぞれ3つのパートは時間描写があり、

第1パート"manhã cede(早朝)"・・・senhora
第2パート"tardezinha(夕暮れ)"・・・menina
第3パート"madrugada(夜明け)"・・・mulher

のように、それぞれ一日の時間を女の様態と象徴的に結びつけて表現している。早朝から夕暮れ、夜明けと一日の時間の流れの中に、ある女の一生を凝縮させた表現とみることもできるかもしれない。

ライナーノーツの訳は、近藤紀子さんによるもの。『ペソアと歩くリスボン』(彩流社)の訳者でもある。上のような表現は、現代ポルトガル語辞典(白水社)を調べても出てこない。「バルを乾かす」など実に興味深い表現と言えるのではないだろうか。

*この歌を歌っている頃、エリスは34歳。こうした大人の歌詞をよく歌い上げている。エリスは本当に歌が「うまい」。

*「mulher」という言葉は「senhora」より生々しい「女」としての意味。近藤さんは、「女」と「奥さん」という訳をつけ、使い分けている。

*前回このCDについて書いたのはちょうど3月30日。同じ季節に書いていることになる。聴くCDには季節感があるようだ。

by kurarc | 2012-03-28 20:34 | Brazil