人気ブログランキング |

Y-チェアの神話

b0074416_2312365.jpg

ハンス・J・ウェグナーのデザインした椅子、Y-チェア(上写真)は、建築家やデザイナーに支持されている椅子である。有名デザイナーの椅子でありながら、価格は10万円をきっており、手に入れやすい。

少し前にブログで書いたハンス・J・ウェグナーの椅子展を体験し、改めてこの椅子について注視するようになった。私も現在2脚持っており、大変重宝している。この椅子を友人に薦めたこともある。

しかし、この椅子を厳密に考え直すと、いろいろ見えてくることがある。その中で最も言いたいことは、この椅子が一見素直にデザインされているように思われるが、それは大きな間違いだということ。この椅子は、背と肘掛けを強引に統合するためにデザインされた椅子なのである。

この椅子に座ったときの違和感は、その強引さにある。背から肘掛けへと曲線を描く丸材は、かなりの曲率であるために、わずかな曲面でしかない人間の背中に対してフィットしない。この曲線は背から肘掛けへと1つの連続した曲線としてデザインしたいがために、その部分はあえて黙認したのだと思う。その反面、秀逸なのはその座面である。わずかな勾配とペーパーコードを結ぶ材の断面形状は隠れて見えないが、座り心地を配慮したものと言える。

つまり、Y-チェアは強引な曲線がつくるマイナス面を座が補い、椅子としての座り心地を確保しているのである。その強引な曲線や肘掛けを支える有機的な形状の脚の魅力により、そうしたマイナス面は背後に隠れて意識されない。

ウェグナーのピーコックチェア(下写真)に座ったとき、このデザイナーのもう一つの顔、いや、本当の顔、を見たような気がした。座り心地のこれだけ悪い椅子をつくるのはどのような理由からなのだろうと。ウェグナーを安易にヒューマニズムをもったデザイナーととらえるのは間違いである、と確信した。私から言えば、彼は、正真正銘のデザイナーであったのだ。ヒューマニズムだけでデザインは成立しない。ヒューマニズムの部分だけを強調すると、どこかの民芸家具と差がなくなってしまう。そのことをよく知っているデザイナーであったから、彼の弟子にポール・ケアホルム(ケアハン)のようなデザイナーが輩出されたのだと思う。デザイナーに安易なレッテルを貼ることは慎まなければならない。
b0074416_20451893.jpg

by kurarc | 2013-10-23 23:12 | design