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具体性という知性

ボルヘス『砂の本』の13話、「砂の本」の中に、聖書(無限の本)を売りにきた男にこう答える場面が登場する。

「うちにも英語の聖書なら何冊かある、最初の、ジョン・ウィクリフ訳もね。また、シプリアーノ・デ・パレラ訳もあるし、ルター訳、これは文学的に最低だがね。それから標準ラテン語訳のウルガタ聖書もある。・・・」

一般に聖書をどのような訳の聖書かと問う者はまずいない。聖書には様々な訳があり、もちろんそのどれもが微妙に異なるはずである。こうした聖書に対するような具体性はラテン世界の特徴、特にスペイン語圏の人間の得意とするところだろう。

物事を具体的に考えるということは以外と難しいのである。たとえば、日本で豚肉を買うときに、その肉がメス豚かオス豚の肉であるか問う人はいないだろう。さらに何歳くらいの豚であったかも。しかし、ラテン世界では、すべて区別されている。

具体性とは知性の一形態である。具体的に物事を考えられるかどうかにより、その人がどれほど世界を深く掘り下げようとしているのかいないのかがわかってしまうのである。
by kurarc | 2014-03-03 22:23 | books