人気ブログランキング |

太宰治著 『富嶽百景』を読む

待ち時間を利用して、iPhone内に入っているi文庫の中の『富嶽百景』を読んだ。

富士山を人格化した太宰と富士との対話の中に、様々なエピソードを組み込んだ小説とも随筆とも言えないような文章である。この文(小説)で気がついたのが、太宰の特徴ある句読点の使い方。文を短く切断して、文章にリズムをつける。読んでいると太宰の文字の音楽が聴こえてくる。

富士を誉めるでもなく、かといってけなす訳でもない。富士を対象にして、その感情の波動のようなものを文にしている。ここには、今や世界遺産となった富士に対する特殊な位置づけは微塵も感じられない。太宰のユーモアもあり、太宰の生の体験が揺れ動いている文である。太宰はこの文を書いた頃に結婚をするが、その再生への力みのない高揚も感じられて、読んでいて心地よい。

「富士には、月見草がよく似合う。」という有名な一節はこの文にあるが、忘れてはならないのは、最後に甲府から見た富士を、「甲府の富士は、山々のうしろから、三分の一ほど顔を出している。酸漿(ほおずき)に似ていた。」と言って終わっていること。文庫では新潮文庫『走れメロス』に所収。
by kurarc | 2014-03-19 20:33 | books