島本千也(かずや)著 『鎌倉別荘物語』と『海辺の憩い』

昨日、鎌倉に行ったおりに、市の中央図書館で、上の二冊を通読した。島本氏の著作については以前から知っていたし、鎌倉在住時には講演会などもあったが、都合で参加できなかった。現在、鎌倉や湘南の別荘について緊急に調べる必要がでてきたせいもあるが、彼の著作がにわかに私の心をひきつけた。

改めて読んでみると、良書である。島本氏は地元鎌倉の深沢高校で教鞭をとりながら、こうした郷土史であり研究書を出版した。

鎌倉は江戸の後期、わずか千戸程度の寒村であったが、その鎌倉が新しい命を吹き返すのは、横須賀が軍都となり、横須賀線が開通したこと、さらに明治20年代に、保養地(リゾート)あるいは「健康」という欧米の概念が定着し、鎌倉が保養地からさらに別荘地へと都市の性格を変化させていったことによる。明治30年以降、驚くべきことに、人口の1/3は別荘族で占められるまでになった。

しかし、関東大震災により、一時その成長が断絶することになるが、鎌倉をはじめ湘南地域は、明治から大正の都市の記憶を俯瞰するにあたり、別荘文化を抜きに語ることはできない。現在、湘南地域で保存活用がなされている建築物の大半は、この別荘地時代の建築物であり、景観である。

島本氏は、こうした文化を明治期の岩倉使節団の欧米派遣あたりから丁寧に解きほぐして、具体的に調べあげている。この書物は、湘南地域の近代に興味のあるもの、湘南地域で活躍しようという建築家たちの必読書と言えるだろう。

by kurarc | 2014-05-08 20:39 | books