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Hotel Cardinal

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最近、何度もみている映画がある。キェシロフスキ監督の『トリコロール 赤の愛』とアントニオーニ+ヴェンダース監督の『愛のめぐりあい』という映画である。『愛のめぐりあい』の方は4話により構成されるが、その第4話、『死んだ瞬間』をよくみる。この2つ映画の主役は、イレーヌ・ジャコブである。個人的に、1990年代を代表する女優をあげろ、と言われたら彼女を真っ先に押すだろう。

『死んだ瞬間』は、舞台が南仏エクサン・プロヴァンスであり、この都市の美しさと映画の様相は切り離して考えられない。私もかつてこの街を訪れ、魅了された一人である。(2014/06/26ブログ参照)この都市と映画の撮影場所などを調べているうちに、この映画の特異性について改めて気づかされた。むしろ、その特異性は普遍的なものであると思う。指摘されれば当たり前のことだが、私はそうした映画の特異性に今まで気づかずにいた。グーグルアースが進化したこともあり、都市への旅は、PCの画面の中で容易になったので、映画の舞台をグーグルアースで精査することも容易となった。



『死んだ瞬間』は、ある男女が、一緒に家を出て、教会でミサを終え、一緒に家まで帰り、別れを告げる、という一瞬の物語である。それを観察する映画監督の視線が介在するが、その監督が滞在するのが、Hotel Cardinal(上-鳥瞰写真Aに位置する。ホテルのすぐ右突き当たりが聖ジャン・ド・マルト教会)である。

ここで、ある女(イレーヌ・ジャコブ)と男ニッコロ(ヴァンサン・ペレーズ)が、聖ジャン・ド・マルト教会までミサに行き、帰るまでの「道行き」に着目してみる。

イレーヌが出てくる家は、Hotel Cardinal(以下H.Cと略)の正面にあることが映画の流れから理解できるので、そのように考えて、イレーヌの家をグーグルアースをもとに位置関係を特定することができる。そうしてわかったことは、映画ではH.Cの正面として特定されている家は、実際は正面にないことがわかった。

イレーヌは、まず家を出て、右手に歩き始めるが、もし、H.Cの正面の家から右手に歩くと、その先には、聖ジャン・ド・マルト教会が見えてくるのである。グーグルアースによれば、H.Cから教会までは眼と鼻の先であり、映画のように教会へ行くまでに時間はかからない。

このことからわかること、それは、映画で指示された方向と、実際の家、街路は対応していないということなのである。アントニオーニは、教会までの道行きに物語をつくる時間が必要であったから、街路を編集、コラージュし、目的地として決定された教会までの道行きの時間を合成したのである。端的にいえば、教会へ行くのに、遠回りしたような道行きをつくった。(映画では、急いでミサに行く必要がある、という流れであった)

つまり、それぞれシーンにふさわしい街路を選定し、教会までの道行きとして編集し、帰りも全く異なる街路を組み合わせて、家からの行き帰りという単調な時間を詩的な時間に再構成したことになる。

私は、グーグルアースで調べながらこのことに気がつき、映画とは編集である、ということがやっと実感できたような気がした。この映画の現場での決定プロセスについては、ヴェンダース著『愛のめぐりあい 撮影日誌』の中で、街路の決定について、ヴェンダースがふれていたことも確認できた。

それにしても、この第4話は魅力的である。最後にヴァンサンがイレーヌを階段で追いかけるときに流れる音楽は、この音楽しかない、という調べを奏でている。教会の中で詠唱されるチャントもライブでの録音。

再びエクサンプロヴァンスに行くことがあれば、このHotel Cardinalに宿泊するしかない。
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by kurarc | 2014-07-11 21:52 | cinema