坂道学(階段学)事始め

坂道を初めて意識したのは小学生低学年のときであった。市ヶ谷のT書房社長宅にお邪魔したときのことである。社長夫人が母の親友であったことから、何度かお宅にお邪魔した。お嬢様が4人いて、自宅内の広々とした縁側に置かれた卓球台で卓球をして、私と遊んでくれた。

このお宅は、1階玄関から2階へ上がると、2階に庭園があった。私は子どもながら不思議でたまらなかった。はじめはなぜなのかよくわからなかったが、帰り際にそのお宅の敷地をよくよく観察すると、坂道沿いに建っていたのである。大邸宅であったから、このお宅が坂道沿い(傾斜地)に建っているとは玄関先では気づかなかったのである。坂道がもつ何か不思議な力、魅力を感じた初めての経験であった。

最近、地元の崖線帯などを歩くと、必ず坂道に出会う。また、私が2年暮らしたリスボンは坂の都市であり、魅力的な坂道が無限に続く都市であった。東京も坂の多い都市である。『大江戸坂道探訪』(山野勝著、朝日文庫)によれば、東京には、江戸時代に命名された坂がおよそ500、明治以降では140ほどあるという。

東京には、坂道のほかに、魅力的な階段も数多い。山野氏が言うには、こうした坂道には江戸の姿をとどめているものが多いという。敷地内の変化は激しかったが、街路、道筋の変化が以外と少なかったため、こうした坂道を訪ねると、江戸の記憶を感じられることになる。

今後、時間をみつけては坂道散策にでかけることにしようと思う。そこから、なにか新らたな東京らしい景観や江戸東京の空間感覚を見出すことができるかもしれないからである。

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by kurarc | 2014-12-08 22:34 | slope-stair