巨匠たちの食生活と文化

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先日、アンコウ鍋で有名な「いせ源」近辺を散策した。都内へ出て、少しの空き時間ができたからだったが、その前に、壇一雄著『わが百味真髄』をながめていて、いせ源が登場していたこともあったからである。

小津安二郎やこの壇一雄のように、食にうるさい巨匠たちのエッセイは数多い。壇のエッセイを読んでいると、有明海の豊かな海産物を食べていた経験からだろうか、その食に対する貪欲さと奥行きを感じる。壇の場合は自ら料理もこなし、レシピ集ともいえる本も出版している。

わたしはこのブログで日本食の嫌悪についてよく書くが、それは「安易な」日本食に対する嫌悪であって、壇が取り上げるような食文化と言えるようなものに対する嫌悪でないことはいうまでもない。

たとえば、上記本の「太宰治に喰わせたかった梅雨の味」という章では、「エツ」(上写真)という有明海の怪魚(珍魚)を紹介している。太宰の誕生日に近い梅雨の時期に、有明海から筑後川に産卵に登ってくる魚であり、中国の一地域とこの有明海にしか現れない魚だという。壇は太宰が郷里の魚である「ハタハタ」をむさぼり喰う様に驚愕しながら、負けじとこの魚を太宰に食べてもらいたいと述べている。こうした奥深い食に関するエッセイを書く壇にはつくづく感心する。

わたしは身近に有明海のような豊饒な海がなかったし、食についてあれこれ気にしているのは、この歳になって、こうした文化を感じたいと思っているだけなのである。来年の梅雨の時期には是非「エツ」を味わいたいと思っている。
by kurarc | 2014-12-20 09:32 | gastronomy