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永遠の都市ローマ 河島英昭著『ローマ散策』

エーコの『薔薇の名前』やカルヴィーノの『まっぷたつの子爵』の翻訳などで知られる河島英昭氏の著書『ローマ散策』(岩波新書)を読んでいる。「散策」というタイトルからは想像もつかない精緻なローマのガイドであり、ローマという都市のパースペクティブを再発見することができる名著である。

たとえば、第Ⅲ章「スペイン階段を見下ろしながら」という章では、あの映画『ローマの休日』でも舞台となったスペイン階段にまつわる計画が詳細に解説されている。

この階段はコンペティションにより建築家が選ばれたという。選ばれたのは建築家フランチェスコ・デ・サンクティスによるデザインであった。しかし、河島氏はこの案と落選案のアレッサンドロ・スペッキの案とを比較し、サンクティスの何が優れていたのかを解説してくれている。このコンペ参加者にはトリノで活躍し、スペイン、ポルトガルでも活躍した建築家ユヴァッラがいたことにも言及している。こうした記述は、我々建築を専門とするものには非常にありがたい内容であり、建築史家のローマ論より余程建築的知見に満ちている。

さらに、階段の昇り口にある「破船(バルカッチャ)の泉」についての解説に進む。なぜこの場所にこの泉が築かれたのか、なぜ「破船」の造形が形づくられたのかetc.を知るとローマという都市の目に見えない歴史や水(川)にまつわる深層が現れてくる。そして、この泉からまっすぐに延びる街路がなぜコンドッティ(導水管)街と呼ばれるのかが明かされる。

こうしたことがなぜなのかは読んでからのお楽しみとしていただきたいが、ローマのような「永遠の都市」を理解するためには、目に見えるものだけでは不可能であり、地中に埋まっているもの、廃墟としての断片やそれらを関連づける想像力が必要であり、かつ、それらをなるべく具体的に理解していこうとする努力も怠ってはならない。

だから、ローマという都市は、読み始めてからいつ読み終えることができるのかわからない書物のようであり、それは永遠に読み解かれていくに違いなく、「迷宮としての都市」とも言えるのだろう。永遠の都市とは年月を重ねても歳をとることがない。なぜなら、常に新しい発見があるからである。

ローマという都市をかつて何度か訪れたが、わたしはいまだに何も知らない、ということがこの書物でわかったのである。

*この著書の中にギーディオンの名著『空間、時間、建築』をとりあげている箇所があった。ギーディオンの著書は近代建築に関する内容だけではなかったのだということを忘れかけていた。久しぶりに読み返さなくてはと思う。

*ローマの永遠性とナチスドイツの建築家シュペーアの言う「廃墟価値の理論(Ruinenwerttheorie)」からもたらされる永遠性は、全く異なる。それは、廃墟がもつ価値の表と裏、ポジティブな価値とネガティブな価値との差異と言える。しかし、シュペーアのような建築家が登場したことは、廃墟というものを論じるときに注意深さを要求されることになる。
by kurarc | 2014-12-21 21:08 | books