岩井克人著 『二十一世紀の資本主義論』を読む

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世紀転換期に書かれた岩井氏のエッセイ集である。巻頭に、この書物のために書き下ろされた論文「二十一世紀の資本主義論-グローバル市場経済の危機」が含まれる。まずは、この巻頭の70ページ程の論文を読んでみた。

世紀転換期にちょうどポルトガルに滞在していたこともあり、1997年に東アジア地域で起こった金融危機について、わたしは全く実感がなく過ごしてしまった。この本を手に取ったのは、その空白の時間を埋めるためでもあるが、さらに、経済というものについて全くの素人であり、これだけグローバル化された市場経済のまっただ中に放り込まれている現況を少しでも明確に意識できるようにしたいというのがその動機である。

気鋭の経済学者である岩井氏の論旨は明快であり、グローバル市場経済、貨幣、資本主義、投機、基軸通貨、シニョレッジ、ハイパーインフレーションetc.についてその意味、その概念に内在する二律背反などについてわかりやすく学ぶことができた。アダム・スミスの『国富論』やトマス・アクィナスの『君主統治論』などにもふれながら、歴史的なパースペクティブまでも解き明かされる論文は、過去の中に現在があることをよく理解させてくれた。

この論文で最も興味深い点の一つは、全く投機に参加していないような一般市民も、グローバル化された市場経済においては、投機に参加していることにほかならない、ということ。また、現在の経済の根本的な危機となるのは、ハイパーインフレーションであり、現時点での「君主」である基軸通貨国アメリカの危機に他ならない、という視点である。

岩井氏は、この危機を乗り越えるには、地球規模の「グローバル中央銀行」設立だと仮定するが、もちろん、現在のような民族紛争や国民国家間の争いの耐えない現況では、そうした支持が集まることは当面はないと断言している。しかし、万が一、地球規模の危機、それはわたしが予想するには、地球規模の水不足や食料危機、同時多発的な原子力発電の事故などが重なった場合などに、そうした機運が起こる可能性は十分考えられるのではないか?

現在、われわれは高度に発達した資本主義社会の中に生きていることになるが、それは、地球規模で考えたときには、中世や近世の時代となんら変わることはないのだと岩井氏はいう。つまり、一国家内、あるいは少数の国家間で起こっていた経済の矛盾が、グローバル化されたことで、地球規模に拡大されたとみることもできるのかもしれない。

岩井氏は、この論文の最後にこう言っている。

「アダム・スミスの時代」である二十一世紀は、アダム・スミスのいう「見えざる手」がその力をますます失ってしまう時代なのである、と。

*岩井氏は、この書物のなかで、憲法9条の改正案についても述べている。それは、皇室典範の改正と一対のものとしての改正私案を示している。
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by kurarc | 2015-02-08 17:35 | books