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フェルナンド・ペソーアというアポリア

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わたしの所属する日本ポルトガル協会の企画で、ポルトガル大使館を会場とした『フェルナンド・ペソーア学入門』という講座(第1回)に参加した。全2回。6月に開催される『海の詩歌』(1915)というペソーア原作の公演をより深く理解できるようにするための勉強会のような講座である。

講師は渡辺一史氏。ペソーアで博士論文を書いたというペソーアの研究者である。ペソーアという一般にポルトガルの近代の詩人と紹介される人物は、ポルトガルの現代のミュージシャンの曲の歌詞のなかにもたびたび取り上げられていて、ポルトガルの詩人の中では突出した存在といえる。

渡辺氏の解説で、少しはペソーアの理解に近づきたいとは思ったが、それは大きな間違いであったようだ。そう簡単に理解できるような人物ではないということが渡辺氏の解説をお聞きし、よく理解できた。ペソーアは哲学者といえるような詩人であり、「異名」という異人格、脱人格を駆使した詩作をつくるが、その人格を理解するためには、ヨーロッパのモダニズム運動だけでなく、ヨーロッパの大きな意味での近代史を理解する必要があること。また、神学として体系づけられるペソーアの思想やパガニズム(汎神論)を理解しなければならないことなど、多くのアポリアを抱え込んだ巨人であった。

生前にはほとんど無名だったと言われる詩人=哲学者ペソーア。しかし、ポルトガル世界を理解するためには、不可避といえる人物である。彼は、ポルトガルという世界を引き受けた上で、文学や評論、詩作において様々な挑戦をしたアヴァンギャルドであるから。彼を少しでも理解できれば、ヨーロッパの周辺に位置するポルトガル世界の本質がつかめてくるような気がするのである。

*ポルトガルに行く前に買った『現代詩手帳』(1996年6月号)の特集「フェルナンド・ペソア」での鼎談 池上峯夫+四方田犬彦+澤田直が上記の問題群をよくとらえている。最近は、ポルトガル発音に準じて「ペソア」を「ペソーア」と表記することが多くなった。

*下にシアターコクーンのHPに掲載されている公演の解説をコピーしておきます。

20世紀のヨーロッパを代表する詩人に数えられ、アントニオ・タブッキ、ホルヘ・ボルヘス、オクタビオ・パスなど名だたる作家に影響を与え、現代もさまざまな領域の芸術家にインスピレーションを与え続けるフェルナンド・ペソーア(1888-1935)。ペソーアが創り出した数多くの「異名」のなかでもとりわけペソーアと密接な関係を持った詩人アルヴァロ・デ・カンポスが海を主題に綴った904の詩句からなる長編詩「海の詩歌(オード)」を、ポルトガル随一の俳優ディオゴ・インファンテ、音楽家ジョアン・ジルが舞台化。「私の祖国はポルトガル語」だと述べたペソーアの詩想を別様に表現したカンポスの詩を、原語ポルトガル語(日本語字幕付)で堪能する一期一会の場となります。
by kurarc | 2015-05-26 20:36 | Portugal