世界文学のフロンティア3 「夢のかけら」

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タイトルの本を図書館で借りる。スタニスワフ・レムやガルシア・マルケスなどの作家から主に東欧圏の作家のアンソロジー。

この本の前書きにあたる、沼野充義氏の『蕩尽された未来の後に』という文章が秀逸である。このシリーズは、20世紀転換期に出版されたものだが、その時代を反映して、20世紀の歴史を総括するような小説が選択されている。よって、沼野氏の文章の内容も、20世紀を明快に振り返る内容となっている。

20世紀前半は、大きくソ連を代表とされる共産主義と、ドイツを代表とする全体主義というユートピアの対立の時代であった。前者は未来を強調し、後者は過去を志向するユートピアであった。そのどちらもがカタストロフィーを迎え、その後の世界を生きるのが我々同時代の人間である。

「大きな物語」の終焉と言われたり、「未来の後」、「ポスト・ユートピア」とも言われる時代が現代である。そうした状況から文学はどのような世界を構築していったのかがこの本の内容である。

沼野氏は、ユートピアとは「どこにもないところ」であるが、それは「いたるところ」と同じことになる、と締めくくっている。我々は、その「いたるところ」から奇跡を起していけるかどうかが問われている、と沼野氏は結論づけている。

by kurarc | 2015-07-08 19:49 | books