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日本語の人称代名詞

『ことばと文化』(鈴木孝夫著)という古典的名著がある。40年以上前に出版された岩波新書だが、この著書の中で特に注目されたのは、日本人が使用する人称代名詞の曖昧さであった。

インド・ヨーロッパ語族に属する言語では、「わたし」、「あなた」ほかに相当する人称代名詞はその言語の誕生以来、全くその構造自体に変化はないということだが、日本語について調べてみると、その変化が著しいし、そもそも人称代名詞に相当することばも少なかったというのである。

例えば、「僕」という言い方。江戸時代に漢文に用いられた文章語であった。その意味は、「あなたのしもべ」という意味であったが、明治になり口語として広まった。しかし、現在では、へりくだった意味として使われていた「僕」は、目上の人には使用することはできないことばに変化した。

さらに、よく言われる「お父さん」、「お母さん」、「パパ」、「ママ」の使い分け。帰りの遅い子供から見たパパのことを、母親が「パパ、遅いわね」といったりする現象である。トルコ語を学んだ鈴木氏は、トルコ人の先生にそのことを話すと、トルコでは少なくとも「おまえのパパ、遅いね」という言い方になるという。

日本語のこのような階級、年齢、性別などによる自己、他者の呼び方は、常に相手を意識することにより変化する。こうした習慣は、例の「おもてなし」文化につながっているのかもしれないが、西洋人にとっては、不可解なことばという印象をもたれることは確かだろう。
by kurarc | 2015-08-05 16:35 | books