椅子と3点支持

登山で、岩登りや沢登りをはじめる前に、まず基本として教え込まれるのが3点支持である。両足と左右どちらかの手を岩から離してはいけないという登り方で、登攀時にそのルールをきちんと守ることを教えられる。電車に乗っていて、つり革につかまらないと身体が安定しないという経験からもそのことはよく理解できる。

椅子についてはどうだろう。わたしはチャールズ・イームズのリプロダクト品の椅子(アームレスチェア)を使っているが、この椅子で映画等を鑑賞していると、身体が安定しないことにが最近気になってきた。イームズの椅子は、座り心地はよいし、食事で使用するには問題ないが、映画をみるときのように、長時間なにかを鑑賞するときに使用するには問題があるということである。

椅子は床に2本の足と座にお尻を接しているから、理屈としては3点支持されていて、安定するはずだが、身体の下半身のみの支持であるので、3点支持というより2点支持に近いのである。椅子に座りながら3点支持を確実に実行するためにはアームが必要になる。映画館の椅子にアームがあるのは、隣同士の境界をはっきり区別させる機能もあるが、やはり、長時間落ち着いて座るための道具として必要なのである。

人が椅子に座るとき、身体は静止した状態ではない。たえず、かすかに揺れ動きながら、または、脚を組んだりしながら疲れを軽減させるように振る舞う。アームがないと、そのかすかな動きは絶えず流動し、身体の姿勢を一定に保つことができない。ある場合には、身体をねじった状態で固定し、気づかないこともある。

椅子に座ることが健康を害する場合があるという最近の研究から、身体を流動されることは必要なのだが、やはり、映画を鑑賞するときのように、2時間程度連続して椅子に座ることを考えると、アームチェアであることが必要だ、というのが現在のわたしの考えである。

椅子は、その使用時間と身ぶり、デザインを密接に連関させる必要があるということである。

*当然、オーケストラで楽器の演奏者が使用する椅子は、長時間座ることがあっても、身体の自由な身ぶりを阻害しないためにもアームレスであることが必要となる。

by kurarc | 2016-01-03 10:03 | design