岸和郎講演会 「京都に還る_home away from home」

今年度で京都大学教授を退任するという建築家、岸和郎氏の講演会を先週末に聴講した。講演は、今まで実現した仕事のスライドを写しながらそのときに思考したことについて淡々と語っていく内容で、難しいことも特に口にすることもなく、大変わかりやすい講演であった。概して、建築家は小難しいことを語るクセのある人種だが、そうした気配はまったく感じられず、あるいは意識的にそのようにしたのだと思うが、岸氏の建築設計への心構えの輪郭が浮かび上がる内容であった。

以前、京都を訪ねたときに見学した岸氏の大徳寺に隣接した仕事「紫野和久傳」が、彼に京都という歴史的背景のある都市を意識させたのだという。そうした経験から、岸氏は大きく都市の文脈(コンテクスト)に素直に対応する柔軟な建築のつくりかたを完成させていったように感じられた。

岸氏の建築は一見、モダニズム建築と言えるものであり、清潔な線をもつ建築が多いが、その建築には、彼が世界中の旅で経験し、消化された様々なテクストの統合された姿であることもよく理解できた。(それが彼の著書のタイトルにもなっている『重奏する建築』なのだろう。)

岸氏の優れた点は、そうした様々な文脈を整理し、完成度の高い建築にまとめあげる能力にあると思う。彼のつくる建築はどれもある水準を超えるものばかりであり、駄作といわれるようなものは見当たらない。

正直、わたしは講演会の内容があまりにも素直すぎて、物足りなさを感じたのだが、それは、わたしが理屈っぽいことに毒されていることの証左なのかもしれない。そう思うと、岸氏は、「脳ある鷹は爪を隠す」建築家の典型のような方なのかもしれない。建築によってすべてを語ろうとする静かな巨匠の一人と言えそうである。
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by kurarc | 2016-02-01 22:04 | architects