「端」のデザイン

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フランス文学者、鈴木道彦著『異境の季節』を読んでいる。プルーストの『失われたときを求めて』の個人全訳をなした文学者として知られている鈴木氏のエセー集といった体裁の書物である。

彼は、パリ滞在のときには好んでセーヌ川左岸に居を定めたという。その詳しい記述「パリ左岸のことなど」を読むと、鈴木氏が都市空間について繊細な感性をもたれていることがよくわかるのだが、「書物を流れる歳月」では、パリ滞在中の仕事場所として活用する「B・N(ベーエヌ)」、つまり、ビブリオテーク・ナシオナル(国立図書館 上写真)のエセーが興味深い。

鈴木氏は、毎日のように通うこの図書館閲覧室の座席について書いている。閲覧室の中で最も心地よく、他人に邪魔されずに仕事に没頭するためには中央より、「端」の席を選ぶというのである。そして、お目当ての席が見つかると、開館と同時に図書館に行き、その席の番号札を指定するのだそうだ。もちろん、フランス人もそうであって、この図書館に通い詰める人はいつも同じ席に陣取り、読書にいそしんでいるらしい。

鈴木氏の言うような「端」の居心地よさは誰もが一度は感じている空間感覚ではないだろうか。同じカフェであっても、この席が落ち着くという場所が必ずあるはずである。われわれのようなデザイナーはそうした人間の空間感覚を心得ていなければならない。図書館の閲覧室のような空間では、鈴木氏の言うような「端」をデザインすることを積極的に行うことが求められるはずである。

それにしても、鈴木氏にはできれば、パリの国立図書館自体についてもう少し記述してほしかった。わたしがパリの建築の中で、最も好きな建築であるからである。
by kurarc | 2016-07-06 17:17 | design