旧山邑邸 空間と装飾

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15年ぶりになるだろうか、芦屋の旧山邑邸を見学してきた。以前見学したときより、この住宅がより優れた建築に思えてきた。1階のエントランスから、2階へと上昇する階段は、なにか吸い込まれるような身体感覚を覚え、気がつくと2階へ導かれているのである。これは、余裕をもった階段のつくりと、自然な螺旋状の階段とが人間の動きを誘発しているからだろうか?

この建築をみたときに、普通はその装飾に目がいってしまうが、この建築の本質はそのようなところにはない。まずはしっかりとした空間構成とプラン、断面がこの建築の骨格をかたちづくっている。装飾はそのような骨格に飾られた化粧のようなものだろう。

何百枚という建具にまず驚かされる。そのどれもが機能的であり、かつ、装飾的であることにも驚かされる。機能と装飾が渾然と結びついている。さらに、どこをみてもデザインが行き届いている。手を抜いたような箇所はどこにも見当たらない。実施設計を担当した遠藤新と南信(まこと)の力量にもよるのだろうが、この設計図を描いていた時、彼らは本当に楽しかったはずである。もちろん、収まりに苦心した箇所は数千を超えるだろうが、それも楽しんだはずである。

この建築は、現在、3回〜4回の大規模なメンテナンスが施されている。この建築をこれまで修繕してきた職人たちの手仕事にも敬意を表したい。そして、この建築を保存することに同意した淀川製鋼所の当時の井上社長の英断にも。
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by kurarc | 2016-10-02 22:39 | architects