映画『奇蹟がくれた数式』

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映画『奇蹟がくれた数式』は、南インドの天才的数学者、ラマヌジャンの短い生涯を描いた映画である。

この映画を見終わって、かつて、インドに旅したときのことが甦った。デカン高原の都市、マンドゥでのことである。貴重なイスラム遺跡の残る街の小さな雑貨屋で買い物をしたとき、店の少年が商品を包んでくれた紙の裏には、紙一面に数式が書き込まれていた。少年が計算用紙に使ったものだったのかもしれない。紙は貴重品なのだろう。そうした紙をとっておいて、商品の包み紙にしたのだと思う。「おもてなし」を大切にするどこかの国では、考えられないことだが、インドという国では、そのようなことは何度か経験して、すでに慣れていたから腹立たしくなるようなことはなかった。

天才とは本当に存在する、とラマヌジャンの映画をみて素直に感じた。32年という短い生涯の中で、彼は三冊のノートを残していった。彼がイギリスのケンブリッジに招聘される前、石版に白い石筆(いわゆるロウセキのようなものだろうか?)で数式を書いては、それを肘で消すことを繰り返しながら、新たな公式を発見し、それをノートに書き残したのであった。

以上は、藤原正彦氏による『天才の栄光と挫折 数学者列伝』(文春文庫)によるが、この数学者巡礼のような書物は、先日このブログで取り上げた、アラン・チューリングについても一章が設けられている。悲劇の天才と言えるラマヌジャンも一つの幸運に恵まれた。ケンブリッジ大の講師であったハーディーという数学者との出会いである。彼は、他の数学者と異なり、ラマヌジャンの数学の重要性を理解し、共同研究者として、彼の業績を論文のかたちにまとめていった。ハーディーがいなかったなら、ラマヌジャンの数学は日の目をみることはなかったかもしれないのである。

残念なのは、映画の出来である。映画の質、特に前半は最低であった。ラマヌジャンのインド時代を描いていたが、インドに残した妻に対する恋慕の描き方が稚拙すぎる。映画としては難点があったが、ラマヌジャンの生涯を知ることができたのは有意義であった。

*数学者ハーディーを演じたジェレミー・アイアンズの演技は光っていた。落ち着いた人格、リベラリズムを根に持つ良識ある英国紳士という役柄は、彼には適役であった。



by kurarc | 2016-11-05 21:49 | cinema