映画「天使の入江」とニースの記憶

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ジャック・ドゥミの映画「天使の入江」は、まず冒頭の1分間で釘付けになってしまう映画である。ジョンヌ・モローの顔のアップが現れたかと思うと、その彼女から遠ざかるようにニースの海岸を疾走する車。その車の後ろにはカメラがセットされているのだろう。彼女の姿は一瞬にして消えてしまう。そのシーンには燃えるようなルグランの曲が流れている。

ジャンヌ・モローは苦手な女優であったが、わたしはこの映画の演技を観て彼女の演技力にすっかり魅了されてしまった。モローはわたしの印象では重い女の役が多かったと思うが、ここではコメディエンヌさながらの軽いギャンブル好きの女を演じている。その演技が今までわたしが抱いていた彼女のイメージを覆してくれるのに十分であった。

この映画を観る前、実はあまり期待はしていなかったのだが、その期待はずれの期待を見事に裏切ってくれた。この頃のジャック・ドゥミの映画はすべてすばらしいものばかりである。

ニースはかつて一度訪れたことがある。しかし、地中海の海水がやけに澄んでいたこと、湖のような海岸だった記憶があるだけで、あまり覚えていない。わたしはニースからサン・ポール・ド・ヴェンスの街に建つ建築家ホセ・ルイス・セルト設計の美術館に行くためだけに立ち寄った。日記によれば、ニースから歩いて2時間以上かかったとある。こうした何気ない想い出というものがわたしには最も貴重なのである。



by kurarc | 2017-02-24 22:10 | cinema