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名著『東京の自然史』(貝塚爽平著)を読む

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名著と言われる書物がある。その一つの条件は、難しいことをわかりやすい文章に置き換えて説明してくれる書物であるが、さらに、文章に落ち着きのようなものが必要である。あせってせかせかと進むのではない。かといって、だらだらとした文章であってはならない。『東京の自然史』は、そうした名著の条件をすべて兼ね備えた名著の中の名著といってよいかもしれない。

まず、この書物が喜ばしいのは、武蔵野台地について単独で1章設けていることである。わたしが現在暮らす武蔵野台地の成り立ちが太古から理解できる。吉祥寺辺りから武蔵野台地の開析谷(こく)がはじまることが記されているが、そのことを知ってはじめて武蔵野台地の西と東の分岐点あたりにわたしが住んでいることに気づかされたし、井の頭公園というものがなぜあの場所に成立しているのかが理解できた。

古多摩川の流れについても大くの論考がなされている。多摩川は当初、狭山丘陵を分岐点として、埼玉側と現在の東京側の両方に分かれて流れていたことを知る。つまり、武蔵野台地は日本の中でも巨大な扇状地なのだ。

また、富士山の火山灰の分布から、偏西風の平均的風向がわかるということも興味深い。東京湾の成立過程にも驚かされた。かつて、東京湾は陸地であり、その中心に古東京川が流れていたという。(約2万年前)

昨今は地形ブームであるが、その古典とも言える本書は、自然史というかたちをとった「武蔵野論」ともなっているのである。それは、独歩の主観として描かれた『武蔵野』を地理学の立場から保管してくれる書物ともなっている。

東京は決して江戸以降の時空間のみでとらえるものではない。少なくとも10万年から100万年くらいのスケールで考えるものであることを本書は教えてくれた。



by kurarc | 2017-02-27 22:06 | books