『エリック・サティの郊外』を読む

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エリック・サティという作曲家を「郊外」をキーワードにして読み解いた本、『エリック・サティの郊外』(オルネラ・ヴォルタ著、昼間賢訳、早美出版社)を通読した。

サティは、20世紀へと時代が移ろうとするその少し前、モンマルトルの「押入れ」と言われたピアノも置くことのできない部屋から、パリの南の郊外、アルクイユの「4本煙突の家」(上は現在の4本煙突の家、グーグルマップより)と呼ばれた家へ移り、そこで死ぬ寸前まで過ごすことになる。アルクイユは、映画『アメリ』の中で登場する水道橋のふもとの街である。かつて、パリの国際大学都市にル・コルビュジェのスイス学生会館を見学に行ったが、アルクイユはこのすぐ南に位置する。

この本から様々なサティの生き様が垣間見られ、興味深かったが、サティのルーツの一つに母方がスコットランドの出身ということがあり、こうした郊外に住む習慣のあるイギリス人たちとの連関があるのでは?といった訳者の見解も興味深かったし、さらにサティがポルトガルの酒精強化ワインであるポルト酒を好んだというのも、元はイギリス人がこのワインをつくったようなこともあり、そうした目に見えないつながりがあるのかもしれない、とわたしも勝手な想像を楽しんだ。

サティはダダイストと紹介されたり、アナーキストと紹介されたりと様々な側面を指摘されるが、この本を読むと、むしろ誠実な紳士というただそれだけの人であったのではないかと感じる。サティはパリ郊外に住むことによって、パリという都市を相対化し、批判した視点に立って彼の音楽を築き上げたのだということがよく理解できた。

フランス語で、banlieusard(バンリュザール)、郊外人としてのサティをテーマとした本書は、一方、この原義に「追放されたもの」として意味があることを隠し持っているため、意識的に使用したのだと思われる。孤独のうちに死んだサティではあったが、こうした孤独の中で大きな創造行為を成し得たサティは、satisfaction(サティスファクスィヨン、サティ+スファクスィヨン、満足、サティ的行為)できた生を営めたのだろうか?少なくとも、サティの曲を享受しているわたしたちにとって、サティの孤独とは無益なものでは決してなかったと言えるということである。

by kurarc | 2017-06-17 23:20 | books