椅子の未来

長時間座ることが健康を害することが常識になってきた。そうしたデータをデザイナーたちはどのように受け止めるべきなのか?ほとんどのデザイナーは無視して、相変わらず工法だの素材にこだわったデザイン、あるいは北欧風(デンマーク風)の椅子をデザインし続けている。

椅子のデザインが破綻しているもう一つの事実は、椅子の補助具の普及にも現れている。座り心地や背骨、骨盤を矯正するような椅子の補助具が数多く出回るようになった。しかし、これらも一時しのぎの道具であり、こうした道具を使い座り続ければ、健康を害することは目に見えている。こうした補助具を使った方がよい、という程度だと思われる。

こうした状況を踏まえると、椅子の未来はどのように変化していくのだろうか?椅子をなくすことはもちろんできない。立ち続けて仕事をするようになるとも思われない。椅子に短時間しか座らなければどんな椅子でもよい、と言えるのかもしれない。30分座り、30分立つような作業ができるのであれば、現在の椅子でも支障はない。求められているのは机のフレキシブル性とも言えるのかもしれない。(実際、上下する机は先進的なオフィスでは導入されている)これらの机に対応した椅子が求められると考えると、立った状態で座れる(立った状態で座る、というこの矛盾した状態をなんと表現したらよいのだろう)ような椅子の必要性も生じてくるのかもしれない。(立った様態で座る必要はない、とも言えるが)

デンマーク風のデザインが相変わらず椅子のデザイン界を席巻しているが、こうした状況は20世紀の夢から覚めていないのと同じではないか。そういうこのわたしも、過去のデザインを参照し、それらを変化させただけのデザインを考え続けてきた。過去を学ぶことは大切だが、このことはヴィンテージ品を抜け出るものにはなり得ない。

もうそろそろ、根本的に椅子のデザインを考えなおさなければならない時期に来ているように思われるが、椅子という道具は保守的な道具(ある意味で普遍的な道具であり、古代エジプトから変化していない)であり、そう易々と変化していくような代物でもない気がする。つまり、机の変化の方が重要であり、椅子は従来のデザインをかたくなに守り続けるようにも思えてならない。

冷めたデザイナーは言うかもしれない。「単に長時間座らないようにすればいいだけだよ」と。

*試しに、「スタンディングチェア」で検索してみると、すでにいろいろなデザインの椅子が開発されていた。わたしが無知であっただけのようだ。

by kurarc | 2018-05-03 23:47 | design