雑誌SD 『音楽のための空間 1989年10月号』

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久しぶりに雑誌SD(古書)を購入した。特集は『音楽のための空間』である。国内外のコンサートホールが数多く紹介されていることと、ホールの特性や楽器、例えばピアノの音の伝達方向などのコラム記事が収録されている。

ピアノの音について、郡司すみ氏(当時 国立音大教授)による興味深いコラムがあった。ピアノという楽器は、ヴァイオリンやトランペットのように携帯できる楽器ではなく、演奏音の一部が直接床に伝達されるために、建築構造内部にピアノの音が深く関わることになる、と郡司氏は指摘する。ピアノを演奏するための建築、空間は建物全体がピアノを含んだ楽器としてとらえなければならないことになる。(チェロなども同様かもしれない)

また、ピアノの特性上、ピアノは舞台のある位置に固定され、演奏されなければならない。そのことは必然的にピアノの音の方向性を注視しなければならないことにつながる。郡司氏は、ユルゲン・マイヤー氏が行ったピアノ音源の測定を紹介しているが、その測定によれば、ピアノの多様な音は、鍵盤の延長上(奏者の右側に伸びる線)を中心として左右に5度振れた狭い範囲に集中するということである。つまり、ピアノコンサートを聴く場合には、鍵盤の延長上の席で聴くのがもっともよい、ということになる。

その他、建築家の吉村順三氏や、様々な音響設計者のコラム記事が豊富に紹介されている。かつて、SDはこれほど力の入った雑誌を出版していたのか、と改めて驚かされた。音響に興味のあるものには必見の特集と言えるだろう。

by kurarc | 2018-11-07 22:26 | books