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タブッキ アソーレス諸島に関するノート

タブッキ アソーレス諸島に関するノート_b0074416_23522008.jpg

アントニオ・タブッキの小説に日本語で『島とクジラと女をめぐる断片』と題された小説がある。この原題は『ピム港の女』。翻訳者の須賀敦子が小説の内容を踏まえて、「島と・・・」にしたものである。

わたしは以前にも書いたように、須賀の翻訳でポルトガルの小説であるにもかかわらず、「サウダーデ」を「サウダージ」というブラジルポルトガル語に翻訳した初歩的なミスを犯していることを知ってから、彼女が翻訳した(タブッキの)小説を読む気がしなくなった。しかし、少し前にブログで取り上げた建築家の青木淳氏がタブッキの小説として初めて『島とクジラと女をめぐる断片』を読んだことを知り、読んでみることにした。

この小説は、ポルトガルの大西洋沖にある群島アソーレス諸島を舞台としている。わたしもポルトガル滞在中、この群島の一つ、テルセイラ島のアンゴラ・ド・エロイズモという世界遺産となっている都市を訪れた。タブッキの小説を読む限り、わたしはタブッキがこの群島を訪れ、小説の題材となるような断片をノートし、その中から一つ一つを小説として仕上げていったのではないか、と想像された。わたしには小説というより、タブッキのアソーレス諸島に関するノートといった仕上がりである、というのが正直な感想である。

だから、この小説は、須賀が「・・・断片」と題したように、取るに足らないエピソードをノートし、またはカードにしたものを手がかりに書かれていると思われるから、必然的に断片にならざるを得なかったのではないか。よって、断片化という主題がタブッキの中にあったことは認められるも、その必然性もあったのだから、この小説のタイトルに「・・・断片」という言葉を入れることは実は必要なかったのではないか。わたしであれば、やはり原題通りでよかったのではないかと思ったのである。

それはさておき、この小説群のなかで、わたしは「アンテール・デ・ケンタル-ある生涯の物語」と「ピム港の女-ある物語」が特に読みやすく、印象深かった。前者はアソーレス出身のポルトガル詩人の生涯を凝縮した小説、そして、もう一つは、タブッキがアソーレス諸島滞在中に出会った老人から題材を借用したと思われるような小説で、どちらも映像が浮かび上がってくるような描写がよい。

アソーレス諸島という日本でもまだ知られていない群島であるために、この小説は日本人にとっては特に想像をかきたてられるものになっているかもしれない。小説の最後に補注があるが、この群島にはフランドル人の植民地化もあり、民族音楽、民間伝承にもその特徴が残っているという。ポルトガルの歴史は、この群島のことだけでなく、本国の歴史の理解のためにも実はフランドル世界との交流の理解が重要であるのだが、そのことはあまり知られていないかもしれない。

タブッキがポルトガル本国だけでなく、アソーレス諸島まで小説の題材としていることを知り、彼のポルトガル世界への興味の深さを知ることができたことは収穫であった。『インド夜想曲』も映画は観たが、須賀の翻訳であるので読んでいない。が、一度は読んでおいた方がよさそうである。

*ピム港はファイアル島オルタ(Horta)の南に位置する小さな入り江を指すようである。ピム港とグーグルで検索しても出てこない。

by kurarc | 2019-01-11 23:51 | books(書物・本・メディア)
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