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空を飛ぶ蜘蛛 池澤夏樹

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池澤夏樹さんの小説(あるいは手紙小説、詩のようでもある)『きみが住む星』に空を飛ぶ蜘蛛の話が書かれていた。

この小説は、旅だった男がその恋人(あるいは妻)にあてた手紙という形式をとっていて、旅先での出来事を短い手紙として恋人(妻)に送るというもの。この手紙はラブレターのようでもあり、こうした手紙を受け取った女性はきっと喜んでくれるはずである。

全部で23通の手紙のなかで、「雪迎え」という手紙に蜘蛛の話が登場する。「雪迎え」とは、晩秋に小蜘蛛が糸をひいて飛んでいく様を言う言葉だそうで、こうした蜘蛛の飛行の後に、雪が降ることからこのように名付けられたという。

蜘蛛の飛行、すなわちバルーニングと言われる現象のため、蜘蛛は思いがけない場所に現れる。上空2000mを超えるような空の中、あるは離れ小島など・・・だからこうした場所で新種と思われる蜘蛛を発見しても、それは遠くの場所から運ばれてきた蜘蛛かもしれない、という疑いをもたなければならない。

空を飛んでいく蜘蛛。このシュルレアリズムのような光景が実は現実の世界のことなのである。池澤さんの小説はこうした自然現象がよく取り上げられるが、なにかラテンアメリカの小説を科学というフィルターで透明にしたようなテイストを感じる。

この手紙小説の最後はすべて「バイバイ」で終わる。わたしはこの「バイバイ」が必要であったのかどうか疑問だが、愛する人への照れ隠しのような感じがしないでもない。

この小説にそえられたエルンスト・ハースの写真は、小説をイメージで補足してくれて、とてもよい写真ばかりである。

by kurarc | 2019-04-04 19:00 | books