映画『天地明察』 渋谷春海と関孝和

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映画『天地明察』を観る。17世紀、改暦に貢献した将軍家碁所であり、和算家でもあった渋谷春海の生涯を描いた映画である。日本映画としてよくできていたが、数学者の藤原正彦氏(著書『天才の栄光と挫折 数学者列伝』文春文庫)によれば、春海の業績はあまり評価されていない。そして、人間的にもである。

藤原氏が評価するのは圧倒的に関孝和である。関は春海と同世代。生年も同じと考えられているが、春海の方は囲碁の名家に生まれ、一流学者に教育を受けたいわばエリートであるのに反して、関の方は田舎侍にして7歳で両親に死に別れ、養子に出された苦労人であったこともあるが、その数学的な業績の深さは比べものにならなかったからである。

春海は確かに当時流布し、誤差の激しかった授時暦から、貞亨暦への改暦に貢献したが、これは、授時暦の常数や係数を調整した、と言う程度に過ぎなかった。それに比べ、関の方は、その探求が根源的であった。授時暦を理解し、清から輸入されたいわゆる『天文大成』80巻を読破。日本独自の方程式の解法、点竄術(てんざんじゅつ)を導いた。筆算代数を創造し、デカルトと同時代人といえるようなレベルに達していたのである。和算によって、代数学、微分積分学に到達したということである。

現在、わたしが興味をもつ17世紀人の中で、特に日本におけるその代表は関孝和である。しかし、こうした天才も子供には先立たれるなど、晩年は恵まれなかったようであるが、その意志は、一番弟子の建部賢弘に引き継がれることになる。

by kurarc | 2019-04-08 23:25 | cinema