新たな『デカメロン』が生まれるのか
手元には『デカメロン 上』(河島英昭訳)が買ってあったが、まだ読んではいなかった。こうしたおりに、この物語を生み出す背景を述べた第1日の序を読んでみたが、古典とは恐ろしいものである。現在の日本の状況を14世紀にすでに書き留められているかのようなのである。
『デカメロン』は「14世紀のイタリアのフィレンツエでペストが猛威をふるった時、7人の淑女と3人の紳士が森の館に避難し、毎日交代で面白い物語を話して聞かせる」(上記、訳本の後付けより)という設定の文学である。『デカメロン』では、ペストという災いは、神が死すべき人間に正義の裁きを与えたのか、といった宗教的記述もあるが、むしろ、当時の混乱を冷静に分析し、都市の現状や人間の本性を具体的に記述している箇所も多く、来るべきルネッサンス人の感性を余すところなく表現している。
河島氏の訳も非常に優れており、訳文が読みやすいだけに、『デカメロン』の物語がよりリアルに感じられる。古典とは、このような文学を言うのだろう。
by kurarc | 2020-03-08 21:18 | books(本(文庫・新書)・メディア)