夏目漱石 『文鳥』

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昨晩、夢の中に小鳥があらわれた。わたしはその小鳥を撫でている。小鳥は嬉しそうに首を傾けて、ふと目が覚めた。

わたしの事務所のとなりにはKOTORI CAFEというカフェがあって、現在は文鳥カフェになった。以前にも書いたが、わたしが小学校1、2年の頃、自宅に文鳥が舞い込んだ。オスの文鳥で、手乗り文鳥であった。その文鳥は今までわたしが飼っていたようになつき、わたしは毎日その文鳥と遊んだ。手乗り文鳥なので、「テノ」と名付けた。

「テノ」の特技は、畳にたたずんでいるときに、畳を手で2回叩くと、2回飛び跳ねながらわたしの方に近寄ってくる。3回叩くと、3回飛び跳ね、近寄ってくる。賢い手乗り文鳥であった。「テノ」は、わたしが飼った動物のなかでは、もっとも記憶に深く刻まれた動物であった。

漱石の『夢十夜』、『永日小品』、『硝子戸の中』など、「小品」と呼ばれる一連の作品のなかに『文鳥』がある。漱石の書斎に面した縁側に、弟子のすすめで、真っ白なメスの文鳥が同居するようになり、その死まで、文鳥との対話を描いた小品である。漱石の文鳥の描写は繊細で、文鳥の仕草が手に取るようにわかる。興味深いのは、そうした仕草がかつての知り合いの美しい女性の仕草に重ねられる描写である。

漱石の文鳥はある日、あっけなく死を迎えることになり、その事実に戸惑うが、漱石はその死を家族や女中のせいにして、その処置を女中や子供達に任せてしまう。その死に対して、悲しみの描写、後悔の描写も希薄である。そうした描き方が、この小品を乾いた作品に仕上げている。じめじめした描き方にしてしまうと、平凡な小品になってしまう、そのことを避けたいという漱石のねらいがあったからなのだろう。

by kurarc | 2020-03-27 19:38 | books(書物・本)