『英国の文学』 吉田健一著

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昨日、シェイクスピアの『ソネット』を読了した。最近は寝る前に、こうした専門外の著書を読むことにしている。今日、仕事の帰りに立ち寄った古本屋で吉田健一著『英国の文学』が目につき、ちょうどシェイクスピアなどについて解説してくれていることもあり、購入した。

わたしが初めて英国、ロンドンを訪れた季節は6月半ばであった。吉田によれば、この6月は英国の春始まりの月であり、最も美しい季節であるという。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』(最近は、『夏の夜の夢』と訳される)の「真夏」とはこの6月半ばのことであり、この季節を思い浮かべられることが必要であるのだが、吉田は、それと対比して、英国の醜悪な冬について、英国人は冬に堪えられる神経の持ち主であるから、春の美しさが感じられるのだ、と述べている。美しい春があるから冬に堪えられるのではない、という興味深い言い方をしている。

わたしのロンドンに対する印象がすこぶるよいのも、この季節に訪れたせいであったことを吉田の文章により今更ながら気付かされた。吉田は、この著書のはじめに『ソネット』でもっともよく引き合いに出される18番目を翻訳していて、この詩に、「いつかは沈むとも見えない太陽の豊かな光線が空中に金粉を舞わせている英国の夏の黄昏」があるとし、英国の夏を想像できなければ、この詩は理解できない、とでも言いたそうである。

高橋源一郎が『一億三千万人のための小説教室』の中で、吉田の文章に一時心酔したと書いているが、吉田の文章には、英国での生活体験を血肉化し、それを知性化したような品が感じられる。

吉田の『ソネット』18番訳詩は、わたしが読んだ小田島雄志訳とはだいぶ異なる。わたしには小田島訳の平易な訳し方の方が合っているが、シェイクスピアの楽しみ方の一つは、様々な翻訳者を比較し、表現の仕方の差異を味わうことかもしれない。吉田のデビュー作という本書から、英国の文学の流れだけでなく、吉田の気品ある文章力を学べたらと思っている。


by kurarc | 2020-04-06 21:20 | books(書物・本)