スタニスワフ・レム作 『ソラリス』解説本

スタニスワフ・レム作 『ソラリス』解説本_b0074416_19441524.jpg



タルコフスキーの映画の原作として知られるスタニスワフ・レム作『ソラリス』解説本を本棚を整理しているときに見つけた。ロシア・東欧文学研究者、文芸批評家の沼野充義氏によるものである。沼野氏によるポーランド語からの原作の訳書を購入してあり、まだ読んでいないのだが、新型コロナウイルスのような未知なる事件に遭遇していることもあり、急に気になり、この解説本を読み直した。

ウイルスとは異なるが、『ソラリス』は宇宙上で人間以外の理性体(ソラリスの海)との接触を描いたSF小説として知られている。平たく言えば「他者として存在」との接触の問題を扱ったSFと言える。

宇宙にはどのような生命体が存在するのか今のところ不明だが、レムはその生命体を人間とはまったく異なる理性をもつ他者であると想定する。さらに、宇宙人の姿を人間の似姿のように考える人間中心主義、アントロポモルフィズム(人間形態主義)を拒否している。それは、社会主義リアリズムのSF小説では、人間が理性の最高段階であるという世界にレムが属していたことへの自己批判でもあった。

沼野氏によれば、レムがこのようなSFを描いたのは、レムの生い立ちが反映されているという。レムの生まれはポーランド領ルヴフであるが、その後、ソ連領に組み込まれロシア語のリヴォフとなり、ソ連崩壊後、ウクライナ領となりウクライナ語のリヴィウと呼ばれるようになった。レムは社会体制から人間関係にいたるまで、すべてが崩壊し、その価値も崩壊してしまうような世界を生きてきた。レムは、残念ながら常に安住できる世界は連続していかないことを身をもって経験した。そうした経験から、世界を懐疑的にみる相対主義的な立場をとるのである。

タルコフスキーの映画はこうしたレムの背景を無視し、最後には地球を登場させ、郷愁に回帰した世界を挿入してしまったことは、レムの意図とはまったく正反対のことであり、レムはこのラストに激怒したと沼野氏は述べている。

未知の現象に遭遇したときの人間の行動を考えるとき、この『ソラリス』というSF小説は我々に多くの啓示を与えてくれるはずである。人間は理性を超えるような経験に遭遇することがありえること、その経験から目をそらしてはいけないこと、そのことをレムは訴えようとした。

カミュの『ペスト』とともに、今再び読まれるべき小説の一つかもしれない。

by kurarc | 2020-05-06 19:42 | books(書物・本)