佐治晴夫著 『ゆらぎの不思議』

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「ゆらぎ」や「1/f」といったことが話題になったのは、わたしが大学生の頃であったと思う。現在、物理学では、宇宙の始原は「ゆらぎ」から始まったということが常識になっている。「対称性のやぶれ」、あるいは「ビッグバン」として知られる宇宙創造の物語を本書は平易に解説してくれている。

さらに、本書の特徴は、物理学だけでなく、文学や藝術との連関とも合わせて解説してくれている点にある。本書は、金子みすゞの詩で始まる。金子みすゞの詩に表現されているような自然に関する感性の鋭さ、豊かさが、まずは宇宙を考える出発点になるということを訴えたかったからだと思う。

本書によって、われわれの身近に存在する自然が「ゆらぎ」という共通性をもつこと、さらに、自然に存在する「ゆらぎ」は二度と繰り返すことはないこと、そこに、美しさがある、と著者は考える。複製品に囲まれた現代に反して、雲の流れや星の瞬き、あるいは風、炎のゆらぎなど我々のまわりには「ゆらぎ」に満ちていることを本書は改めて気づかせてくれる。

本書で特に興味深かったのは、地球外知的生命体に関する記述であった。著者は、もし、地球外知的生命体に遭遇できれば、銀河系的規模でものごとの新しい価値観や判断基準を手に入れることができること、また、地球外知的生命体とのコミュニケーションについて、1/fゆらぎを使ったコミュニケーションの可能性について述べている。地球外知的生命体の脳は我々の脳と同じ原子、分子からできていることは間違いないから、数学的な論理体系や感覚器官も類似しているに違いないと著者は推測している。

人間は最後は死に炭素にもどるが、それも宇宙のチリという始原に回帰することであると考えれば、そのチリから新たな生命体が誕生するかもしれないと考えると、人間は死んだことにはならないのでないかなどと考えたくなる。本書を通じて、改めて自然の奥深さ、1回性という美しさを味わうことを忘れないようにしたいと思わされた。


by kurarc | 2020-05-13 20:35 | books(書物・本)