『重力とは何か』(大栗博司著)を読む

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ブラックホールの画像が話題となったのはいつだったか。新型コロナウイルスの報道で、そうした最も興味を持つべき情報がかき消されてしまっている。現在、最も刺激に満ちた分野といえば、わたしの中では物理学である。

表題の『重力とは何か』は、その名の通り、重力の研究史であり、ニュートンからはじまる重力という発見からアインシュタイン、超弦理論までのパースペクティブである。新書でおよそ300ページほどの本書を要約することはわたしには不可能であるが、大栗氏は、物理学初学者にもアクチュアルな物理学の最前線の事象を平易に解説してくれている。

重力は通常、物理学を知らないものにとっては、ニュートンの世界で終わっている。少し興味のあるものは、アインシュタインの相対論までは知っているかもしれない。問題は、その後である。ホーキングが宇宙には特異点が存在することからアインシュタインの理論が完全ではないことを証明したこと、そして、相対論に対して量子力学というミクロの世界との統一理論は可能か?最後に、重力は消えてしまうのだが、そのあたりから、現代物理学は素人では感覚的につかみきれない世界に入っていくようだ。

本書で興味深かったのは、宇宙の根源を説明する究極の基本法則は必ずある、と言い切っていること、また、マルチバース(多重宇宙)についてであった。マルチバースが事実として発見されれば、ユニバースという言葉が辞書からなくなるかもしれない。そして、宇宙が一つではないならば、それによって、神の存在は否定されるだろう。

物理学は現在、中途半端なSF小説を読むより刺激に満ちていることだけは確かである。今後は超弦理論についていけるように大栗氏の著作をフォローすることにしたい。

by kurarc | 2020-05-26 20:37 | books(書物・本)