トニーノ・グエッラ 生誕100周年

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今年、イタリアの脚本家(作家、詩人)、トニーノ・グエッラ(上画像、トニーノ・グエッラ ミュージアムより借用)が生誕100周年であることに気がついた。すでに2012年に逝去されているが、わたしはこの脚本家(映画脚本家)がいなかったらこれほど映画を観るようにはならなかったと思う。

彼は、ミケランジェロ・アントニーオーニ、フェリー二、マルコ・ベッキオ、タルコフスキー、テオ・アンゲロプロスといった名だたる巨匠の映画の脚本を担当している。以前にも書いたが、わたしが映画の脚本を意識するようになったのは、アンゲロプロス監督の『シテール島への船出』という映画であった。映画の最初で、「私だよ」(ギリシア語で「エゴイメン」)という単純なシナリオがいかに大きな意味を持つのか、考えされられた。ラストのシーン、「夜明けだ」、「いいですよ」という夫婦の会話が交わされたのち、浮桟橋は海の彼方へと消えていく。この映画の最も美しいシーンだが、この会話はその美しさを壊すことのないミニマルな言葉で締めくくられている。

残念だが、日本語で読める彼に関する書籍は見当たらない。研究者や彼のファンは多いはずだが、ウィキペディアでも資料の紹介はない。作家のイタロ・カルヴィーノと同時代人であるから、スペイン戦争を青春期に知り、第二次大戦では、ドイツのファシスト連合部隊と何らかのかたちで戦闘した世代かもしれない。その経験から、彼の詩的な表現は導きだされたのだろう。

彼の関わったシナリオの映画をすべて観ているわけではないが、可能な限り観たいし、すでに観た映画もまた観直したい。また、彼に関する資料もできるだけ収集したいと思っている。イタリア文化会館などで何か催し物があることを期待したい。

*トニーノ・グエッラの「グエッラ」(Guerra)は、「戦争、争い」を意味する。これが本名であるらしいので、不思議だ。

*彼のミュージアムのHPによれば、第二次大戦中、グエッラはドイツに強制送還され、収容所生活の中で、物書きとしての素質を発見した、とある。

*ミュージアムの場所は、彼の晩年の住居に建設されたようだ。サンタルカンジェロ・ディ・ロマーニという街で、リミニの西10kmほどのところである。

by kurarc | 2020-06-03 13:14 | cinema(映画)