『池澤夏樹 ロング・インタビュー 沖にむかって泳ぐ』池澤夏樹、新井敏記著

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作家の池澤夏樹さんの1990年代中盤までの活動と小説の方法について、新井敏記さんのインタビューとそれに回答する池澤夏樹さんという形式を編集した書物である。本の最後に池澤夏樹さんによる自著の解説や、この本の索引もあり、池澤さんの活動の理解の助けになる。

わたしは小説を読むことが苦手なので、池澤さんの小説もあまり読んではいない。むしろ、映画評論や沖縄、フランスでの生活を描いたエッセイのようなものを中心に読んでいる。本書は、そうした内容に対する記述も含まれるが、結論から言えば、ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』とそれに対峙するようなかたちで生み出された池澤さんの小説『マシアス・ギリの失脚』についての関係についてが中心となっている。もちろん、多くの池澤さん好みの小説の紹介もあり、彼がどのようなスタンスで小説に取り組まれているのか、明確に語られている。

池澤さんにはなにか縁があるような気がして、ずっと注目してきた。池澤さんが沖縄に建設した住宅は、わたしが沖縄で働いた建築事務所による設計であり、わたしも昨年、外部より見学させていただいた。それよりはるか前だが、アンゲロプロスの映画のシナリオの翻訳者として注目していた。

この本には、漱石の小説に描かれたような個人という時代の苦難やその出現によって捨てさられた共同体という社会組織などをどのようにとらえるのか、という根源的な社会の捉え方から池澤さんの小説のコンセプトが考えらえていること、タイトルにあるように、私小説という従来の小説世界から、「世界」という「沖にむかう」ための方法論など、21世紀以降の小説の進むべき道について示唆してくれている。驚いたのは、現在新型コロナウイルスにより疲弊している社会のような状況を、1990年代の時点で言及されていることである。一流の小説家とは、予言者でもあるのだろう。

わたしが最も関心をもったのは、現在疫病の流行によって都市市民が共同体的組織をまた求め始めていると思われるが、個人と個人の集団として都市は成立していることに変わりはない。その様態が今後、どのように変容していくのか(あるいは変容しないのか)考えるきっかけをこの本がつくってくれそうだ、ということである。

by kurarc | 2020-06-07 14:04 | books(書物・本)