映画『ポルトガル、夏の終わり』
舞台は、リスボンから列車で40分ほどの街、シントラである。シントラは緑の多い観光地であり、別荘地でもある。わたしはリスボンに滞在中、何度も訪れた。ここへくると自然が日本に近く、ほっとするからであった。
映画では、わたしの知らないシントラの風景が数多く出現した。わたしは観光地しか歩いていなかったことを初めて気付かされた。この映画を見るとポルトガルは美しいと思うに違いない。しかし、それは半分あたっていて、半分はずれている。
映画の主役は、イザベル・ユペール。以前、アテネ・フランセで彼女の講演を聞いた。飾ることのない出で立ちや振る舞い、いわゆる自然体という形容がふさわしいフランスの知的な女性であった。映画に対する情熱は人一倍激しく、日本の映画にも出演したいという意志をもっているようだったが、彼女を使えるような映画監督やシナリオを書ける人間が果たして日本にいるのかどうか?
見終わってから、もう一度観に行きたいと思った。すなおに頭の中にストーリーが入ってこなかったし、うとうとして、見逃してしまったシーン、セリフもあるからである。素直な映画のようで、決してそうではない映画であった。大西洋に面した国でなければ撮影できないであろうと思われるラストシーンは秀逸であった。
*映画監督のアイラ・サックスはこの映画のためにだと思うが、エリック・ロメールを研究したことが、パンフレットに書かれていた。この映画、確かにロメールの『海辺のポーリーヌ』を想像させる。ラストは『緑の光線』かもしれない。
*リスボンに暮らしている時、台所の窓は西に向いていて、その窓からオレンジ色の夕焼けを楽しめたのだが、その方向は、この映画のラストシーンで登場する光と同じ方角であることに気がついた。
by kurarc | 2020-08-17 21:32 | cinema(映画)