メメント・モリ

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メメント・モリ(memento mori「死を記憶せよ」)という警句は、ヨーロッパでペストが流行するなかで言い習わされるようになったという。この言葉が、現代においてもなお生きていることをコロナウィルスが教えてくれた一年であった。

ペストが流行したヨーロッパでは美術においても教訓絵が生まれ、そのタイトルは「死の勝利」であったり、「死の舞踏」などと名付けられた。有名なものでは、ピーテル・ブリューゲルの『死の勝利』(1563年頃、上)があるが、この絵画は、ブリューゲルがイタリア旅行の折に、イタリアの壁画(ピサのドゥオモ広場のカンポサントなどの作例)に描かれた「死の勝利」の作例がヒントになったと言われている。

来年はいよいよワクチンが接種される年になりそうであるが、”Vaccine"(ワクチン)という言葉は、”Vacca"(牡牛)からきており、日本では干支である牛と偶然一致することになった。

抗体という言葉の前、「抗毒素」という名前であったが、この発見に寄与したのは北里柴三郎であった。「抗毒素の発見は「免疫」という生命にとってきわめて重要な生体反応の少なくとも一部が、血清中を流れる特定の物質、つまり「抗体」によって起こっていることを証明した。」(『免疫・「自己」と「非自己の科学」』(多田富雄著)より)北里の発見は、近代免疫学の出発点であったということであり、日本はこうした研究でリードしていたのだが、現在の状況をみると、北里の研究以後、大きな進展がなかったのだろうか、と思われても仕方のない状況が日本では続いている。

今年から新年にかけてどのような教訓が生まれるのかわからないが、すでに何百年前に言い習わされた「メメント・モリ」が現代においても端的に語っていると思われる。この言葉だけで十分である。

by kurarc | 2020-12-30 11:34 | fragment(断章・断片)