映画『つぐみ』

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正月早々、映画『つぐみ』を観る。市川準監督の映画を観るのは初めてのことである。原作は吉本ばなな。彼女の小説を読んだことはないが、『TUGUMI』は読んでみたくなった。

”つぐみ”という少し問題のある少女を牧瀬里穂さんが演じている。なかなか難しい役柄だったと思うが、熱演している。映画はちょうどわたしが大学院で論文を書いている頃(1990年)に公開されている。バブル後期の頃だが、映画の中にそのような社会情勢は微塵も感じられない。映画の舞台が伊豆松崎であることも大きいのだろうが、時間の流れが現在とは異なりゆったりとしていて、観ていて羨ましく思えた。

わたしが論文を書いている頃、川越に住んでいたが、夜、ファミレスに行って、涼みながら本を読み、論文の準備をしていたことを思い出した。(アパートにエアコンがなかった)夜、自転車で走った川越の街は静かで、今は賑やかになってしまった川越とは大違いであった。そのことが映画を観ていて重なってきた。

原作はどのような描き方をしているのかわからないが、純文学に近い小説のような気がする。つぐみを取り囲む姉(白鳥靖代)や従姉妹(中嶋朋子)らのつぐみに対する接し方は繊細で優しい。だから、つぐみはそうした周囲の人間に甘えきっているが、自分ではその甘えが理解できていない。彼女らは、そうした甘えがある一方、つぐみの純真さにも驚かされている。だから、余計つぐみに対して厳しくなることができないのである。

松崎を舞台(小説では伊豆土肥を想定しているらしい)としていることも、この映画を魅力あるものにしてくれている。長八美術館も登場するが、メインの舞台となった旅館、街のなにげない街路や海の景観、街並みがよい。映画において撮影場所は重要である。

日本映画もたまにはよいものである。市川監督の映画をもう少し観てみたくなった。

*上写真:映画の舞台となった旅館梶寅。営業停止後、解体されてしまったという。



by kurarc | 2021-01-02 19:58 | cinema(映画)