内藤廣著 『形態デザイン講義』読了

内藤廣著 『形態デザイン講義』読了_b0074416_20475372.jpg

内藤廣著の『形態デザイン講義』を読み終えた。全体の印象は建築概論といった体裁で、建築を大きくとらえた内容であった。第1章総論は、読んでも読まなくともよい内容で、重要なのは第2章以降である。

この講義の中心は、技術、場所、時間の翻訳と名付けられた章立てで、形態をどのように考え、生み出していくのかについての作法に関するような描き方をしている。特に、第4章の「時間の翻訳」では、吉田健一、加藤周一、塩野七生、堀田善衛、イリヤ・プリゴジン、清水博、田中忠三郎らの著作の紹介、解説が登場するのには興味をもった。

第5章の「島根県芸術文化センター」では、石州瓦という素材との出会いからその使い方までの経緯が興味深かった。出来上がった建築にはノスタルジーが醸し出されたが、そのノスタルジーをピアソラの音楽に例えたところには驚いた。内藤氏はピアソラの音楽が好きなようである。

多くの内容のつまった講義であるが、やはり内藤氏にとって、海の博物館の仕事はその後の建築をつくる上で大きな影響を及ぼした仕事であったことがわかる。30代の頃、この建築を見学するために渥美半島から船で鳥羽まで渡った。途中、神島のわきを船が通過していくが、このルートは鳥羽へ行くときにお薦めのコースである。この建築は当時、全体として坪単価50万円で建設されたという。その中で、革新的な構造形式と地元の漁村の風景を思わせるような形態をつくり、内藤氏が命名した「素形」および「素景」という概念に最初に近づいた仕事であったのではないだろうか。

『構造デザイン講義』、『環境デザイン講義』、そしてこの『形態デザイン講義』は、建築を考えるものにとって必読書であると確信した。内藤氏の誠実な歩みの一端を知ることができるし、建築を続けるためには謙虚さが必要であることを思い知らされる。そして、雑誌を賑わしているスターアーキテクトのような建築家に対するやんわりとした批判も忘れていない。

もう一度、この3冊を読み直し、完全に内容を理解できるようにしたいと思う。

by kurarc | 2021-01-06 20:45 | architects(建築家たち)