須賀敦子の方へ?

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須賀敦子さんは、わたしにとってはアントニオ・タブッキというイタリアの作家の翻訳者として親しんでいる。しかし、以前このブログでも書いたが、ポルトガルを題材としたタブッキの小説に出てくるポルトガル語の日本語訳について、音の翻訳にかなりいい加減なところがあり、がっかりしたといったことを書いた。よって、彼女の作品はいまだに読んだことがない。

そう思って須賀さんの作品を読むことを拒んでいたが、最近、松山巖さんが、『須賀敦子の方へ』という著書を出版し、もはや、彼女の作品を読まないわけにはいかなくなったと思い始めた。松山さんは、建築の出身でありながら、作家として活動されている優秀な方であり、以前、修士論文を書いている頃、一度お会いしたことがある。松山さんが須賀さんと懇意であったとは知らなかったが、松山さんが「たぐい稀な作品を紡ぎ出した」作家であると言っているからには、そうであるに違いないのである。

もちろん、彼女の翻訳なしに、わたしはタブッキの小説を読むことができなかったのだから、その点については感謝しているし、彼女が相当タブッキの小説に傾倒していたこともあとがきなどからわかっていたから、須賀さんの感性にはずっと興味をもっていたことは事実である。

実は、須賀敦子さんの同時通訳者としての仕事をわたしは大学生の頃、拝見したことがある。アンドレ・パッラーディオというイタリアのマニエリズム期の建築家の没後400年を記念するシンポジウムのことである。このシンポジウムには、建築家の磯崎新さんや、確かイタリア建築史家の長尾重武さん、イタリアからは、建築史家マンフレード・タフーリ氏他が参加されていて、今まで経験した中で最も緊張感のあるシンポジウムであったと思う。(それは、タフーリ氏が磯崎さんの古典建築に対する態度に対し批判を行ったことによる)このシンポジウムの同時通訳をやられていたのが、須賀敦子さんであったのだ。今から思えば、なぜ建築部外者である須賀さんが担当することになったのか疑問が残るが、当時、イタリア帰りの日本人建築史家でも、同時通訳をこなせるような力量のあるものがいなかったからであろう。

そうした縁もあり、わたしも松山さんの言うように「須賀敦子の方へ」近づき、彼女の作品を味合わなければならない時が来たようである。

by kurarc | 2021-02-05 20:32 | books(本(文庫・新書)・メディア)