小津安二郎 映画『晩春』の不気味さ

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久しぶりに小津の映画を観た。彼の映画はいつみても同じ印象であろうと思っていたが、それは180度違っていた。原節子が初めて出演した映画であり、小津映画が完成されたと言われるこの映画は、わたしにはヒッチコックの映画のように不気味な映画に感じられた。やはり、映画とはおもしろいもので、年齢によってまったく感じかたが異なってくるものなのである。

この映画を今見ると、原節子演じる紀子は典型的なファザコンであり、映画の前半、笑顔が眩しい紀子が、後半では笠智衆演じる父をみる目がヒッチコックの映画に出てきてもよさそうな不気味な流し目に転じる。それは、笠が再婚するという嘘をついて、紀子の結婚を促すのだが、紀子はそれが嘘だとわかっていたのか、それともわからなかったのかは、わたしには判断できないが、今までの父と娘という関係の崩壊を感じた紀子は、急に陰湿な眼差しを帯び始めるのである。

たまたま、この映画と小津の最後の映画『秋刀魚の味』を合わせて観たのだが、この映画もなかなか結婚しようとしない娘を送り出す映画であり、おおよそ『晩春』と物語は重なっている(『晩春』のリメイクとさえ感じられる)。この重なりも興味深いが、映画自体、不気味さは消えていて、むしろ、笠演じる父親の悲しみが目立つ映画であり、笠の酒による酔いの名演技が際立った映画となっている。(この笠の酔っ払った演技は本当に酒を飲んで演じたような名演技である。)

小津映画の難解さ、それは、特殊な事件を描いている訳ではなく、どのような家族にもありがちな日常を描いているにもかかわらず、なにか普通ではない不自然さ(映画自体の不自然さとセリフの構成自体の不自然さ等々)をもっているようなところがあり、そうした視点にたって、小津映画を改めて鑑賞してみようと今思っている。当面、『晩春』以後の映画を見直そうと思っている。

*小津映画の中に登場する、家具、特に椅子にも興味をもっている。普通の椅子ではなく、デザインされた椅子や骨董品のような椅子が映画のなかで使用されていることがわかる。映像に耐えられるものを選定していたということなのかもしれないが、明らかに、相当のこだわりをもって選定されたことは確かだと思われる。

by kurarc | 2021-02-28 23:13 | cinema(映画)